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鹿児島地方裁判所 平成8年(わ)239号 判決 1996年12月10日

被告人

氏名

野下敦祥

年齢

昭和一一年八月一〇日生

本籍

鹿児島市田上台二丁目三四〇六番地二一

住居

鹿児島市田上台二丁目七番六号

職業

会社役員

検察官

福光洋子

弁護人

池田(私選)

福元紳一(私選)

鑪野孝清(私選、主任)

主文

被告人を懲役一年に処する

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、平成五年ころ、知り合いの高原裕喜から夢工房サンコー有限会社の会長で全国同和連合会会長を自称する濵畑康正を紹介され、濵畑が同和団体の力を背景に、国税局や税務署に圧力をかけて税金を安くしたり、金融機関に融資の条件を変更させたりしていることを聞き、顧客を紹介するように依頼され、そのころから報酬を目当てに濵畑や高原に顧客を紹介する、いわゆる代理店として活動するようになり、平成六年一二月初めころ、相続税の支払いに苦慮していた西岡岩男を濵畑に紹介したものであるが、西岡岩男、濵畑康正、分離前の相被告人朝木正生らと共謀の上、西岡岩男の実父西岡嘉四雄が平成六年四月二三日死亡したことに基づく西岡岩男の相続財産に係る相続税を免れることを企て、西岡嘉四雄の財産を相続した相続人全員分の正規の課税価格が総額一二億六二八一万九〇〇〇円で、これに対する相続税額は総額二億一八七八万三四〇〇円であり、このうち西岡岩男の正規の課税価格は九億九四二五万四〇〇〇円で、これに対する相続税額は二億一四七八万〇八〇〇円であるにもかかわらず、被相続人西岡嘉四雄が、原口三郎から借入金元本三億円及び利息三億八〇〇〇万円の合計六億八〇〇〇万円の債務を負担していたと仮装した上、同年一二月二六日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同署長に対し、相続人全員分の課税価格は総額六億七八四六万八〇〇〇円で、このうち西岡岩男の課税価格は三億三一五五万七〇〇〇円で、これに対する西岡岩男の納付すべき相続税額は六八八万九四〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により右相続に係る西岡岩男の納付すべき正規の相続税額二億一四七八万〇八〇〇円との差額二億〇七八九万一四〇〇円を免れた。

(証拠)

括弧内の番号は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官調書(乙一ないし七)

一  西岡岩男(甲一〇ないし一五)、高原博喜(甲一六ないし一八)、朝木正生(甲一九、二〇)、原口三郎(甲二一、二二)、廣野峰代(甲二三、二四)、吉留健志(甲二五、二六)、秋山幸彦(甲二七、二八)、小野譲(甲二九、三〇)、西岡律(甲三一)、市川洋子(甲三二)、小泉幹惠(甲三三)、塩野千寿子(甲三四)、生山嘉美(甲三五)及び八木義文(甲三六)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲五ないし七)及び実況見分調書謄本(甲八、九)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲一)、脱税額計算書説明資料謄本(甲二)及び相続税額計算書謄本(甲三)

一  鹿児島市長作成の戸籍謄本(甲四)

(法令の適用)

罰条 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法六〇条、六五条一項、相続税法六八条一項

刑種の選択 懲役刑を選択

刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑事情)

本件は、被告人が、脱税請負グループを組織し全国同和連合会会長を自称する濵畑康正やその配下の者及び納税義務者である西岡岩男と共謀し、六億八〇〇〇万円の架空債務を計上した虚偽の相続税申告をし、約二億円余りもの巨額の相続税を免れたという重大で悪質な組織的犯行である。被告人は、報酬目当てに、西岡を濵畑に紹介した上、両者の間で報酬額の交渉をしたり、同和団体とのトラブルを懸念していた西岡に脱税の依頼を決意させるため説得工作を行うなど、積極的に重要な役割を果たしており、その利欲的な犯行動機に酌量の余地はなく、本件への関与の程度も決して小さくない上、西岡が支払った報酬額のほぼ四分の一にあたる一一二〇万円もの高額の報酬を実際に受けとっていることなどを併せ考えると、被告人の刑事責任は相当重いと言うべきである。

しかしながら、被告人は、架空債務の作出や虚偽過少申告などの実行行為には直接関与しておらず、いわゆる代理店として脱税請負グループの中では相対的に低い地位に留まっている上、被告人は、受けとった報酬のうち約一〇五〇万円については、すでに西岡に返還しており、その残金についても西岡との間で分割して返還する旨合意していること、交通関係の罰金前科以外に犯罪歴はないこと、被告人は、現在では深く反省し、事実を素直に認め、二度と過ちを犯さないことを誓っており、妻もこれを監督する旨約束していること等酌むべき事情も認められるので、これらの情状を総合考慮して、被告人には主文の刑を科した上、今回に限りその刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 島田一 裁判官 田村政巳)

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